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プレシジョンメディシンとは?遺伝子からがんを治療する一人ひとりに合わせて選択する「個別化医療」を解説

読了時間:約13分

がん治療では、同じ臓器のがんでも、患者さん一人ひとりで効きやすい薬や治療法が異なることがあります。プレシジョンメディシンは、がん細胞の遺伝子変化などを調べて、その人に合う治療法を提供する医療です。この記事では、プレシジョンメディシンの仕組み、活躍する場面、従来のがん治療との違い、実績と課題、受ける方法までをわかりやすく解説します。

プレシジョンメディシンとは|定義と基本的な考え方

プレシジョンメディシンの考え方は、患者さん一人ひとりのがんの特徴を遺伝子レベルで調べ、その人に合う治療法を提供するというものです。日本語では「精密医療」「個別化医療」と説明されることもあります。

従来のがん治療では、臓器名やがんの種類、病期をもとに治療方針を決めるのが基本でした。プレシジョンメディシンではこれに加えて、がん細胞の遺伝子変化、タンパク質の発現、患者さんの全身状態、これまでの治療歴などを組み合わせます。同じ肺がん、同じ乳がんでも、細胞の遺伝子変化が異なれば効きやすい薬は変わります。プレシジョンメディシンは、こうした違いを治療選択に活かそうとする考え方です[1]

ただし、遺伝子を調べれば必ず合う薬が見つかるわけではありません。検査で治療に結びつく情報が得られないこともあり、標準治療を含めた治療全体のなかで、検討する必要があります。

保険診療におけるプレシジョンメディシンの仕組み|遺伝子パネル検査と分子標的薬

プレシジョンメディシンは、がん遺伝子パネル検査で患者さんのがんの遺伝子情報を調べ、その結果を解析し、治療候補を絞り込む流れで進みます。保険診療で実施する遺伝子パネル検査ではエキスパートパネルと呼ばれる専門家チームによる検査結果の解析が実施されます。

がん遺伝子パネル検査でわかること

がん遺伝子パネル検査は、がん組織や血液を用いて、がん細胞に起きている数十から数百の遺伝子変化を一度に調べる検査です。国立がん研究センターのC-CATは、この検査を一人ひとりに合った治療法の手掛かりを見つける検査と説明しています[3]

検査で遺伝子変化が見つかると、その変化に対応する薬や治験・臨床試験が候補として検討されます。たとえば、特定の遺伝子変異に対しては分子標的薬が候補になることもあります。

エキスパートパネルが治療候補を検討する

検査結果は、薬物療法・ゲノム医療・病理・遺伝カウンセリング・バイオインフォマティクス(コンピューターを用いた大規模な遺伝子データの解析技術)などの専門家集団による会議「エキスパートパネル」で検討されます。担当医はその検討結果を参考に、患者さんの状態や希望を踏まえて治療法を提案します[2]

保険診療で行われるがん遺伝子パネル検査では、患者さんの同意に基づき、結果や診療情報がC-CATに登録されます。登録された情報は、患者さん自身の治療支援や将来の医療の発展に役立てられます[3]

プレシジョンメディシンが活躍する場面|希少がん・原発不明がん・再発・転移

保険診療においてプレシジョンメディシンが特に検討されるのは、標準治療の選択肢が限られている場面です。具体的には、標準治療がない希少がん、原発不明がん、標準治療後に再発したがん、転移を伴う進行がん(いわゆるステージⅣ)などが挙げられます。

こうした状況では、臓器名や病期だけでは治療方針を決めにくいことがあり、遺伝子情報を手がかりに新たな治療候補を探す意義があります。

活用シーン期待できること注意点
希少がん・原発不明がんの治療臓器名だけでは治療方針を決めにくい場合に、遺伝子変化から候補を探す。薬が見つかるとは限らず、治験の条件に合わないこともある。
再発・転移がんの治療標準治療後の次の選択肢や臨床試験を検討する手がかりになる。全身状態や既治療により、検査や治療が難しい場合がある。
分子標的薬の候補確認特定の遺伝子変化に対応する薬が候補になる場合がある。適応、保険適用、承認状況、治験条件の確認が必要。

ただし、すべての患者さんが対象になるわけではありません。がんの種類や全身状態、過去の治療歴によっては、検査を受けることが難しい場合もあります。

一方で自費診療では、遺伝子パネル検査を受ける条件やタイミングに制限がありません。患者さんが希望するタイミングで遺伝子パネル検査を検討することもできます。

プレシジョンメディシンと従来のがん治療の違い|保険診療と自費診療の選択肢

プレシジョンメディシンは、現在の保険診療や標準治療を否定するものではありません。従来のがん治療では、がんの種類や進行度をもとに治療方針を決めるのが基本でした。プレシジョンメディシンではこれに加えて、がん細胞の遺伝子変化や分子の特徴を治療選択の手がかりとして使います。

従来のがん治療における治療の選択肢

従来のがん治療における主な治療の選択肢は、がんの手術、放射線治療、薬物療法、緩和ケアなどの組み合わせです。がん免疫療法も薬物療法の一種として含まれます。標準治療は科学的根拠に基づき、現時点で多くの患者さんに推奨されています。

現在の保険診療で行われる標準治療では、がんの種類や病気、病理検査や画像検査の結果、年齢や全身状態、合併症の有無、患者さんの希望などをもとに治療方針が決まります。

プレシジョンメディシンでは

これらの情報に加えて、がん細胞の遺伝子変化や分子の特徴を調べたうえで治療を検討します。

【従来のがん治療とプレシジョンメディシンの違い】

項目従来のがん治療プレシジョンメディシン
治療選択の手がかりがんの種類、病期、画像・病理検査、全身状態など左記に加えて、遺伝子変化や分子の特徴を参考にする
目的科学的根拠に基づく標準治療を中心に、患者さんに合う治療を選ぶがんの個別の特徴から、より合う可能性のある治療候補を探す
注意点すべての患者さんで同じ治療になるわけではない検査しても治療候補が見つからない、または使えない場合がある

両者は対立するものではなく、状況に応じて組み合わせて検討されます。

保険診療・自費診療の選択肢

プレシジョンメディシンは、保険診療と自費診療のどちらでも実施されています。条件を満たす場合は保険診療や先進医療として、対象外の場合や別の選択肢を求める場合は自費診療として行われています[2]

比較項目保険診療のプレシジョンメディシン自費診療のプレシジョンメディシン
対象希少がんなどで標準治療がない、または標準治療が終了、終了が見込まれる固形がん/造血器腫瘍などの患者さん左記の条件に該当しない場合も含めて、幅広い患者さん
主な検査がん遺伝子パネル検査(組織検査が中心)リキッドバイオプシー(血液検査)も選択肢に入る
検査タイミング標準治療後などの条件に該当した時点早期段階・治療経過中など、より柔軟に検討可能
費用高額療養費制度の対象になる場合がある全額自己負担

どの選択肢が適しているかは、がんの種類・進行度・治療経過・費用などによって異なります。検討する際は主治医やプレシジョンメディシンを実施しているクリニックに相談したうえで、必要に応じて自費診療でプレシジョンメディシンを行う医療機関にも問い合わせるという方法があります。

プレシジョンメディシンの実績と課題

プレシジョンメディシンは治療選択肢を広げる可能性がある一方、すべての患者さんが治療にたどり着けるわけではありません。期待値を整えるために、現時点で公表されている実績データと、治療につながりにくい主な理由を確認しておきましょう。

プレシジョンメディシンの実績

国立がん研究センターのがん情報サービスでは、がん遺伝子パネル検査で治療選択に役立つ可能性がある遺伝子変異は約半数の患者さんで見つかる一方、実際に薬の使用に結びつく人は限られると説明されています[2]

2025年6月に日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会が合同で公表したブリーフィングレポートでは、保険診療下(標準治療終了後または終了見込み)でがん遺伝子パネル検査を実施した場合、検査結果が治療に結びつく割合は8.2%にとどまると報告されています[6]。一方、先進医療B標準治療開始前にがん遺伝子パネル検査を実施した研究では、薬剤につながる割合が19.8%(1年追跡で22.7%)と、より高いことが報告されています[7]。背景には、保険診療では検査のタイミングが「標準治療終了後」に限定されており、全身状態や臓器機能の悪化により治療に進めない患者さんが一定数いるという制度上の課題が指摘されています。

数字の絶対値だけでなく、「どの制度のもとで、いつ検査を受けたか」によって結果が変わる点が、プレシジョンメディシンを検討するうえでの判断材料になります。

※先進医療Bとは、国が将来の保険導入の可否を評価している先進的な医療のうち、未承認・適用外の薬や医療機器を用いる、あるいは安全性・有効性を特に慎重に確認する必要があると判断された技術。厚生労働省が認めた限られた医療機関で、厳格な研究計画のもとに実施される。

保険診療におけるプレシジョンメディシンの課題

保険診療でのがん遺伝子パネル検査の結果が治療につながりにくい主な理由として、次のような点が指摘されています。

  • 治療選択に役立つ遺伝子変化が見つからない
  • 検査結果の解釈が難しい
  • 候補薬が国内で承認されていない、または使えない
  • 治験の参加条件に合わない
  • 患者さんの全身状態から治療継続が難しい

なお、がん遺伝子パネル検査では、本来の治療選択とは別に、遺伝性腫瘍に関わる可能性のある情報(二次的所見)が示されることがあります。本人だけでなく家族にも関係する内容を含むため、検査前に医師から二次的所見や遺伝カウンセリングについて説明を受けたうえで判断します[2]

プレシジョンメディシンを受けるには

プレシジョンメディシンを検討する際は、まず主治医やプレシジョンメディシンを実施しているクリニックに相談しましょう。がんの種類、病状、これまでの治療、全身状態によって、検査を受けるタイミングや必要性は変わります。

相談から検査までの流れ

検討する際は、次のステップで進めるとスムーズです。

  • 主治医に、検査の目的と受けられる条件を確認する
  • 保険診療・先進医療・自費診療・治験の違いと、自分が該当しそうな枠組みを整理する
  • 結果が出た後に、薬・治験・経過観察など、どの選択肢があり得るかを確認する
  • 遺伝性腫瘍や家族への影響が気になる場合は、遺伝カウンセリングも相談する

保険診療で受ける場合の医療機関

保険診療のがん遺伝子パネル検査は、標準治療がない、または終了が見込まれる固形がんの患者さん、造血器腫瘍または類縁疾患の患者さんなど、一定の条件を満たす場合に検討されます[3]。検査は、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院などで行われており、国が指定した医療機関で受けられる体制が整えられています[4]

現在通院している病院で直接検査できない場合でも、条件に合えば紹介や連携によって検討できることがあります。近くの医療機関を探す際は、『がん診療連携拠点病院やがんゲノム医療中核拠点病院等の一覧』やがん相談支援センターを活用できます[5]

自費診療で受ける場合の医療機関

保険診療の条件に該当しない場合や、より早期段階で検査を検討したい場合には、自費診療でプレシジョンメディシンを実施している医療機関があります。検査内容、対象とする遺伝子の範囲、費用、結果の解釈、検査後の治療連携について、医療機関ごとに方針が異なります。事前に複数の医療機関を比較し、自分の状況に合った選択肢かどうかを確認することが大切です。

プレシジョンメディシンに関するよくある質問

ここでは、プレシジョンメディシンについてよくある疑問を整理します。

プレシジョンメディシンは保険診療で受けられますか?

一部は保険診療で行われています。がん遺伝子パネル検査を保険診療で受けるには、標準治療が終了または終了見込み、あるいは希少がんのように標準治療がないといった条件を満たす必要があります[2][3]。費用や対象条件は変わることがあるため、主治医や医療機関で確認してください。詳しくは関連記事「プレシジョンメディシンは保険適用外?」もあわせてご覧ください。

標準治療と並行できますか?

検査や治療候補の検討は、標準治療の前後や治療経過の中で位置づけられます。プレシジョンメディシンは標準治療を否定するものではありません。そのため現在治療中の場合は、主治医と相談し、治療を中断せずに検討することが重要です。主治医との関係性や具体的な進め方は、関連記事「標準治療とプレシジョンメディシンは並行できる?」で詳しく扱っています。

ステージⅣや再発・転移がんでは必ず検査すべきですか?

全員に必要な検査ではありません。ステージⅣ、がんの再発、がんの転移がある状況では検討されることがありますが、がんの種類、標準治療の有無、全身状態、検査後に取り得る選択肢によって判断します。

がん免疫療法と同じものですか?

同じではありません。プレシジョンメディシンは、がんの特徴を調べて治療を提案するものです。がん免疫療法は薬物療法の一種で、免疫の働きを利用してがんを攻撃しやすくする治療です。検査結果ががん免疫療法を含む治療選択に関係することはありますが、意味は異なります。

希少がんでも役立ちますか?

役立つ可能性はあります。希少がんでは標準治療の選択肢が限られることがあり、遺伝子変化から治療候補を探すことがあります。ただし、候補薬が見つからない、治験に参加できないなどの限界もあります。

まとめ

プレシジョンメディシンは、がん細胞の遺伝子変化を手がかりに、一人ひとりに合う治療法を提供する医療です。日本では、保険診療・先進医療・自費診療のそれぞれで実施されており、検査内容や対象条件、費用が異なります。

  • がん遺伝子パネル検査とエキスパートパネルで治療候補を絞り込む
  • 希少がん・原発不明がん・再発・転移など、標準治療の選択肢が限られる場面で活用される
  • 従来の治療を否定するものではなく、選択肢を広げる考え方
  • 制度的な背景によって治療到達率に差があり、比較データが判断材料になる
  • 保険診療は指定医療機関で、自費診療は対応する医療機関で実施されている

「新しい治療だからよい」と単純に判断するのではなく、自分のがんの状況・治療経過・費用負担の余力を踏まえ、保険診療と自費診療のどちらが適しているか、主治医やがん相談支援センター、医療機関に相談しながら判断していきましょう。

【参考文献】

  1. [1] 国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療」
  2. [2] 国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療 もっと詳しく」
  3. [3] 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「がん遺伝子パネル検査とは」
  4. [4] 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「検査を受けたいときは」
  5. [5] 厚生労働省「がん診療連携拠点病院等」
  6. [6] 日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づく固形がん診療に関するブリーフィングレポート」https://www.cancer.or.jp/uploads/files/briefing_report.pdf
  7. [7] Matsubara J, et al. First-Line Genomic Profiling in Previously Untreated Advanced Solid Tumors for Identification of Targeted Therapy Opportunities. JAMA Netw Open 2023;6(7):e2323336.(FIRST-Dxスタディ)

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