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遺伝子パネル検査(血液検査)の種類と精度|選び方と組織検査との違い

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従来は手術や生検でがん組織を直接採取することが一般的だったがんの遺伝子検査ですが、近年では血液から得られるDNAを解析する「リキッドバイオプシー」が選択肢として広がっています。日本では保険診療で実施できる検査が承認されているほか、自費診療で実施される検査もあり、対象者・検査の回数・結果までの期間などで制度的な違いがあります。

本記事では、血液で受けられるがん遺伝子パネル検査について、保険診療・自費診療で受けられる検査の種類、検査の精度、組織検査との違い、検査の流れと対象者などをわかりやすく解説します。

血液で受ける遺伝子パネル検査(リキッドバイオプシー)とは

リキッドバイオプシーは、血液からがんの遺伝子情報を調べる検査の総称です。従来主流だった組織検査が手術や生検でがん組織そのものを採取するのに対し、リキッドバイオプシーは採血だけで実施できる検査として、近年活用が広がっています[1][2]

血液で遺伝子変異がわかる仕組み

がん細胞は増殖と死滅を繰り返す過程で、自身のDNA断片を血液中に放出します。このがん由来のDNA断片を循環腫瘍DNA(ctDNA)と呼びます。リキッドバイオプシーでは、採取した血液からctDNAを取り出して配列を解析することで、がん細胞に生じている遺伝子変異を特定します。

組織検査との位置づけ

リキッドバイオプシーは組織検査を完全に置き換えるものではなく、状況に応じて使い分けられる選択肢の一つです。組織採取が体への負担になるケースや、検査結果のスピードが求められるケースでリキッドバイオプシーが選ばれることが多く、両者の特徴を踏まえて担当医が判断します。詳しい比較は本記事の後段で扱います(活用シーンや受けるタイミングの詳細は内部リンク先を参照)。

血液で受ける遺伝子パネル検査の種類|保険診療と自費診療

日本で受けられる血液による遺伝子パネル検査には、保険診療として実施されるものと、自費診療として実施されるものがあります。検査の仕組みや解析技術自体は重なる部分が多い一方で、受けられる対象者・検査の回数・結果が出るまでの期間など、制度面での違いがあります。

保険診療で使える血液検査

日本の保険診療では、2025年時点で以下の2製品が血液による遺伝子パネル検査として承認されています。

製品名FoundationOne Liquid CDxGuardant360 CDx
保険収載年2021年8月[3]2023年7月[4]
対象遺伝子数324遺伝子[3]74遺伝子[4]
開発元Foundation Medicine(米国)Guardant Health(米国)

どちらの製品も、血液中のctDNAを解析することでがん関連遺伝子の変異を調べる点は共通しています。また、特定の薬剤が使用できるかを判定するコンパニオン診断の機能を持っており、検査結果が治療薬の選択に直結することがあります。

自費診療で行われている血液検査

自費診療では、上記の保険適用パネルを保険対象外の患者さんに提供するケースのほか、海外で承認・提供されている別の血液検査パネルを用いるケースがあります。具体的にどのパネルが用いられるかは医療機関によって異なります。

自費診療では制度上の対象者条件がないため、保険診療で対象外となる方も検査を受けることが可能です。例えば、標準治療を継続している段階の方、診断初期の段階の方、治療経過に応じて複数回検査したい方などです。

一方で、結果の解釈や治療への結びつけ方は医療機関の方針や担当医の経験に依存する部分が大きく、十分な説明を受けたうえで判断することが大切です。

保険診療と自費診療の制度的違い

項目保険診療自費診療
対象者標準治療が終了または終了見込み、あるいは希少がんのように標準治療がないなどの条件あり制度上の対象限定なし
受けられる施設がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院自費診療を行う医療機関
検査の回数同一のがんに対して原則1回制度上の回数制限なし
結果までの期間検査からエキスパートパネルを経て概ね1〜2か月1週間〜数週間程度(医療機関により異なる)
エキスパートパネル必須(複数の専門家による検討会議)制度上は必須ではない
費用負担保険適用(自己負担割合に応じて変動/高額療養費制度の対象)全額自己負担

エキスパートパネルとは、腫瘍内科医・病理医・遺伝の専門家などが集まり、個々の患者さんの遺伝子検査結果を検討する会議です。この会議での議論をもとに、担当医が患者さんへ治療方針を提案します。保険診療では実施が義務付けられています。一方で自費診療はエキスパートパネルの検討など制度上の手続きを要しないケースもあり、保険診療と比較して結果が出るまでの期間が短くなる傾向がありますが、保険診療と自費診療のどちらが向いているかは、患者さんの状況(病期・治療段階・どのタイミングで遺伝子情報を得たいか)によって異なります。検討する際は、それぞれの制度上の特徴を踏まえたうえで担当医と相談することが大切です。

血液で受ける遺伝子パネル検査の精度|どのくらい組織検査と一致するか

血液による遺伝子パネル検査の精度は、がんの種類・進行度・腫瘍量によって変動します。組織検査との一致率も同様に幅があり、検査結果の解釈には複数の要素を踏まえる必要があります。

血液検査と組織検査の一致率

複数の臨床研究で、血液による遺伝子パネル検査と組織検査の一致率が検証されています[7][8]。一般に、進行がん(ステージⅣや転移を伴う状態など)では血液中のctDNA量が増えるため、組織検査との一致率は比較的高くなる傾向があります。一方、早期のがんや腫瘍量が少ない状態では、ctDNAが血液中にわずかしか存在しないため、一致率は低くなりやすいことが知られています。

がんの種類によっても一致率には差があり、例えば肺がんなど血液中にctDNAが放出されやすいがん種では、進行例で高い一致率が報告されています。一方、腫瘍量が少なくなりがちながん種ではより慎重な解釈が求められます。

ctDNA量と検出感度の関係

血液中に流れ出るがん由来のDNA(ctDNA)の量は、腫瘍の大きさ・種類・転移の状況によって変わります。腫瘍が小さい段階、血液中へのDNA放出が少ないがん種、治療直後でがん細胞が一時的に減少している状態などでは、ctDNAが検出されにくくなります[7]

このような状態では、実際には遺伝子変異が存在していても検査で見落とされる「偽陰性」が起こりうるため、検査結果が陰性であっても遺伝子変異がないと断定はできません。

陰性結果の解釈と血液検査特有の注意点

血液検査で「変異なし」という結果が出た場合でも、その意味は患者さんの状態によって異なります。本当に陰性の場合もありますが、腫瘍量が少ない、治療経過の途中で血中のctDNAが減っている、対象パネルでカバーされていない遺伝子に変異がある、など複数の可能性があります。

また、血液検査では加齢などに伴って健康な血液細胞自体に生じた遺伝子変異が、がん由来の変異として検出されることがあります。これは「クローン性造血」と呼ばれる現象で、加齢に伴って血液をつくる細胞(造血幹細胞)の一部に遺伝子の変化が起こり、その変化を持つ細胞が増えていく状態を指します。多くの場合は健康に大きな影響はありませんが、血液検査では「がん由来の変異」との区別が難しいため、解釈には注意が必要です。検査結果の解釈には、これらの要素を踏まえて担当医を含めた専門家チームが総合的に判断します。

血液検査と組織検査の違い|どちらを選ぶか

血液検査と組織検査は、どちらが優れているかという話ではなく、それぞれに異なる特徴があります。患者さんの状況や腫瘍の種類、その時点での治療段階に応じて、より適した方法が選ばれます。

血液検査と組織検査の比較

項目血液検査組織検査
検体採血手術や生検でがん組織を直接採取
体への負担採血のみで済み、負担が少ない組織採取・再採取に伴う負担がある
情報の範囲全身のがんの遺伝子情報を広く拾いやすい採取した部位の情報に限られる
腫瘍量が少ない場合血液中のctDNAが少なく検出されにくい採取できる腫瘍細胞さえ十分あれば検出しやすい
結果が出るまでの時間短い(2週間〜数週間程度)比較的時間がかかることが多い(1〜2か月程度)
治療経過の追跡繰り返し実施しやすい(保険診療では回数制限あり)再採取の負担から繰り返しは難しい

※組織を直接採取する検査とは、手術以外に針生検・内視鏡などを用いてがん組織の一部を採取する検査を指します。

血液検査が選ばれやすいケース

血液検査が特に有効な選択肢となるのは、以下のような状況です。

  • 腫瘍の場所や患者さんの状態により、組織を直接採取することが体への負担になる場合
  • 過去の手術や検査で採取した組織しかなく、現在のがんの状態を反映していない可能性がある場合
  • 結果が出るまでの時間を短くしたい場合(次の治療方針を早急に決める必要がある場合など)
  • 治療経過に伴う遺伝子変異の変化を追跡したい場合

担当医と相談したうえで判断する

どちらの検査を選ぶかは、患者さんの状態・腫瘍の種類・治療段階・検査でわかることへの期待など、複数の要素を総合的に踏まえて担当医が判断します。両方の特徴を理解したうえで、気になる点は担当医に相談することが大切です。

検査の対象条件や受けられる施設は保険診療と自費診療で異なるため、自分がどの制度で検査を受けられるか、希望するかも含めて整理しておくと、相談がスムーズになります。

血液で受ける遺伝子パネル検査の流れと対象者

血液による遺伝子パネル検査を受けるには、保険診療では一定の対象者条件を満たす必要があり、検査から結果説明までも一定の期間がかかります。ここでは保険診療を中心に、検査の流れと対象者を整理します。

保険診療の対象者と標準治療の考え方

保険診療として血液による遺伝子パネル検査を受けられるのは、以下の条件を満たす場合です。

  • 標準治療がない固形がんの患者さん(原発不明がんや希少がん)
  • 局所進行または転移があり、標準治療が終了した(終了見込みを含む)固形がんの患者さん

これらに加え、担当医が次の治療に耐えられる状態にあると判断した場合に検討されます。

検査を検討すべき「標準治療の終了」とは

「標準治療が終了した」とは、現在のガイドラインで推奨される主要な治療を一通り行い、効果が認められなくなった状態や、副作用などで継続が困難になった状態を指します。重要なのは、完全に治療手段がなくなる前に相談を始めることです。検査には時間がかかるため、標準治療の最終ラインを検討し始めた段階で担当医に打診しておくのが一般的です。

なお、白血病やリンパ腫などの血液がんを対象とした別のがん遺伝子パネル検査(ヘムサイト)が、2025年3月1日より保険診療で実施されています[5](本記事の対象は固形がん向け検査です)。

自費診療では制度上の対象者条件がないため、上記の条件に当てはまらない患者さんも検査を受けることが可能です。

検査から結果説明までの流れ

保険診療で検査を受ける場合の流れは以下のとおりです。

  • 採血(外来で実施)
  • 遺伝子解析(血液中のctDNAをもとに遺伝子変異を解析)
  • エキスパートパネル(複数の専門家による検討会議)
  • 担当医からの説明

採血から担当医による説明までは、一般的に1〜2か月程度かかります。

自費診療ではエキスパートパネルが制度上必須でないため、結果が出るまでの期間は短い傾向があります(2週間〜数週間程度/医療機関や検査機関により異なる)。

検査結果が治療に結びつく割合

血液による遺伝子パネル検査を受けたからといって、必ずしも新しい治療法が見つかるわけではありません。日本の保険診療下のデータでは、検査後に新たな治療へ結びついた割合は限定的にとどまることが報告されています。一方、検査のタイミングや制度的な枠組みによって、その割合がより高くなることも指摘されています[6][9][10]

検査結果から治療への到達率は、がんの種類、検査のタイミング、利用可能な治験や薬剤の状況によって異なります。検査の意義や期待できることについては、検査を受ける前に担当医から十分に説明を受けることが大切です。

血液で受ける遺伝子パネル検査のよくある質問

血液による遺伝子パネル検査を受ければ、必ず治療法が見つかりますか?

必ずしも治療法が見つかるわけではありません。検査で遺伝子変異が見つかっても、対応する薬剤がない場合や、患者さんの状態によって使用できない場合もあります。検査を受ける前に、担当医から検査でわかること・期待できることについて十分に説明を受けておくことが大切です。

費用はどのくらいかかりますか?

保険診療で実施する場合は保険適用となり、自己負担割合(1割・2割・3割)に応じて費用負担が変わります。高額療養費制度の対象となる場合があるため、詳細は病院の相談窓口に確認することをおすすめします。検体準備などの費用が別途必要となる場合もあります。

自費診療では全額自己負担となり、費用は医療機関や用いる検査パネルによって異なります。具体的な費用は、受診を検討する医療機関に直接確認してください。

血液で受ける遺伝子パネル検査は、一度しか受けられませんか?

保険診療として受けられる血液による遺伝子パネル検査は、同一のがんに対して原則1回に限られています。そのため、どのタイミングで受けるかが重要です。

自費診療では制度上の回数制限がないため、治療経過に応じて複数回検査することも可能です。受けるタイミングの詳しい考え方は、記事⑤「遺伝子パネル検査をやるおすすめのタイミング」を参照してください。

検査結果が陰性だった場合、どう解釈すればよいですか?

検査結果が陰性(治療に結びつく遺伝子異常が見つからなかった場合)であっても、必ずしも遺伝子変異が存在しないとは限りません。腫瘍量が少ない、ctDNAが検出されにくい状態など、複数の可能性が考えられます。検査結果の解釈や今後の方針は、担当医を含めた専門家チームが総合的に判断します。

血液で受ける遺伝子パネル検査は、どこの医療機関で受けられますか?

保険診療では、全国のがんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院・がんゲノム医療連携病院で受けられます。施設数や所在地は、国立がん研究センターのがん情報サービスやC-CAT(がんゲノム情報管理センター)のウェブサイトで確認できます[1][2]。まずはかかりつけ医に相談するか、お近くのがん相談支援センターに問い合わせるとスムーズです。

自費診療では、自費診療を行う医療機関で受けられます。検査パネルの種類や費用は医療機関によって異なるため、複数の医療機関の説明を踏まえて検討することをおすすめします。

まとめ|種類と精度を踏まえた検査の選び方

血液による遺伝子パネル検査(リキッドバイオプシー)は、採血だけでがん細胞由来のDNAを解析し、複数の遺伝子変異を一度に調べられる検査です。体への負担が少なく、組織採取が難しい状況や検査結果のスピードが求められる場面でも活用が広がっています。

血液による遺伝子パネル検査の選び方は、保険診療と自費診療のどちらが自分の状況に適しているか、検査でわかることに対して何を期待するかによって変わります。担当医と相談したうえで、必要に応じてそれぞれの制度や検査パネルを扱う医療機関の説明を比較しながら判断することが大切です。

【参考文献】

  1. [1] 国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療」
  2. [2] 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査」
  3. [3] 中外製薬「FoundationOne® Liquid CDx がんゲノムプロファイル、血液検体を用いた固形がんに対する国内初の包括的ゲノムプロファイリングとして発売」プレスリリース(2021年8月2日)
  4. [4] ガーダントヘルスジャパン「固形がん患者さんの血液検体を用いた包括的がんゲノムプロファイリング『Guardant360® CDx がん遺伝子パネル』販売開始のお知らせ」プレスリリース(2023年7月24日)
  5. [5] 大塚製薬「国内初の造血器腫瘍遺伝子パネル検査『ヘムサイト®』新発売 ─ 2025年3月1日より保険適用開始 ─」プレスリリース(2025年3月3日)
  6. [6] 日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会 3学会合同ゲノム医療推進タスクフォース/ワーキンググループ「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づく固形がん診療に関するブリーフィングレポート」(2025年6月11日)
  7. [7] Woodhouse R, et al. Clinical and analytical validation of FoundationOne Liquid CDx, a novel 324-Gene cfDNA-based comprehensive genomic profiling assay for cancers of solid tumor origin. PLoS One. 2020;15(9):e0237802.
  8. [8] Odegaard JI, et al. Validation of a Plasma-Based Comprehensive Cancer Genotyping Assay Utilizing Orthogonal Tissue- and Plasma-Based Methodologies. Clin Cancer Res. 2018;24(15):3539–3549.
  9. [9] Yatabe Y, et al. Nationwide Real-World Usage of Blood-Based (Liquid) Biomarker Testing in Japan. Cancer Sci. 2025;116:3113–3124.
  10. [10] Nakamura Y, et al. Targeted therapy guided by circulating tumor DNA analysis in advanced gastrointestinal tumors. Nat Med. 2025;31:165–175.

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