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保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けたけど治療につながらなかった方へ|次にできること

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保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けている方は、2019年6月の保険適用開始から2026年4月30日までの累計で約13万人にのぼります[1]。ところが、その検査結果をもとに実際に治療標的となる薬剤が投与された方の割合は、全体で8.0〜8.2%程度と報告されています[2][3]。

つまり、多くの方が検査を受けても、実際に治療につながるのは10人に1人程度で、残りの方は「検査を受けたけれど、その先に進めなかった」ということになります。もしご自身がそうだったとしても、それは患者さんや主治医の判断が誤っていたわけではなく、今の制度の中では起こりやすいことです。
しかし、治療につながらなかったとしても、諦める必要はありません。このあと、なぜ治療に結びつかないのか、そしてそこからどんなアクションが取れるのかを解説します。

なお、この割合は年々上昇しており、2019〜2020年の5.5%から2023〜2024年には10.0%まで増加しています[3]。また、がんの種類によっても差が大きく、甲状腺がんや肺がんでは20〜35%程度と高い一方、膵がんや肝臓がんでは2%未満にとどまるという報告もあります[3]。つまり、検査を受けるタイミングやがんの種類によって、治療に結びつく可能性は変わってきます。

なぜ治療に結びつかなかったのか。理由は主に2つ

結果が返ってくるまでの時間の問題

保険診療でがん遺伝子パネル検査を行う場合、結果が出るまでに1か月ほどかかります。そこからさらに、「エキスパートパネル」という専門家会議を開かなければならないというルールがあります。この会議は、腫瘍内科医や外科医、遺伝カウンセラー、病理の専門家など7〜8人が集まって、検査結果のどの情報を患者さんに返すべきかを検討するものです。

このエキスパートパネルは、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院など、指定された医療機関でなければ開催できません。検査を行った病院にエキスパートパネルの設置がない場合、拠点病院にデータを送って会議をしてもらう必要があり、結果が届くまでに合計で1~2か月かかることがあります。標準治療が終わった段階の患者さんは、すでに厳しい状態にあることが多く、1~2か月後に結果が届いても、その時にはもう治療を受けられる状態ではなくなっている、ということが実際に起きています。

がん種ごとに保険適用が決まっている「制度の壁」

見つかった遺伝子変異に対応する薬が、自分のがん種には保険適用されていないという問題もあります。日本の薬事制度では、薬の保険適用はがんの種類ごとに個別に決まっています。

例えば、EGFRという遺伝子変異が見つかったとします。EGFRに対応する分子標的薬は、肺がんの治療薬としては保険適用を取っていますが、もし患者さんが胃がんだった場合、同じ遺伝子変異が見つかっても、その薬を保険診療で使うことはできません。薬そのものは存在していて、その遺伝子変異に効くことも分かっているのに、がんの種類が違うという理由だけで、保険では使えないということが起きます。

これは主治医の判断が間違っているわけではなく、がんの種類ごとに保険適用が決まっているという、制度上の縦割りが理由です。ごく稀に、その薬がちょうど自分のがん種を対象にした治験を行っているタイミングであれば、治験に参加できることもありますが、それは限られたケースです。

まず確認したい3つのこと

検査を受けたが治療につながらなかったという状況にある場合、まず確認したいことが3つあります。

1つ目は、検査結果の詳細なレポートを、主治医から取り寄せることです。実際のレポートは20〜30枚にわたる詳細なものですが、患者さんに渡されるのは、要約された1枚程度の説明であることが一般的です。詳しいレポートには、見つかった遺伝子変異の一覧や、それぞれの変異についての参考情報が記載されています。「見つかった変異が本当に何もなかったのか」、それとも「変異はあったが使える薬がなかったのか」を、まずはっきりさせることが大切です。

2つ目は、主治医に、次のような点を具体的に確認することです。「見つかった遺伝子変異は何か」「その変異に対応する薬は存在するか」「存在するなら、なぜ保険適用外なのか」「対応する治験は行われているか」。こうした質問によって、単に「治療法がありませんでした」で終わらせず、次の手がかりを掘り出せる可能性があります。

3つ目は、保険診療で受けたがん遺伝子パネル検査の結果は、多くの場合、C-CAT(国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター)というデータベースに登録されているということです[1]。これは研究や治療法の開発のためのデータベースで、患者さん本人のデータが将来の新薬開発や医学研究に活用される可能性があります。今すぐの治療に直結するとは限りませんが、データが眠っているわけではないということは知っておいていただきたい点です。

ここから何ができるのか。選択肢を整理する

① 自費診療での治療を検討する

すでに受けた検査結果を使って、自費診療での治療を検討する方法があります。保険診療で行った検査の結果は、多くの場合、そのまま自費診療のクリニックでも活用できます。もう一度検査をやり直す必要がない場合もあり、見つかった変異に対応する薬が、別のがん種にしか保険適用がなかったとしても、自費診療であれば使用を検討できることがあります。

ただし、自費診療は薬代だけで月に数十万円かかることもあり、費用が大きな壁になります。最近では、自費診療の治療費をカバーする特約が付いた民間のがん保険も出てきているので、加入している保険がある場合は、その内容を確認してみることも一つのアクションになります。

② 患者申出療養制度を利用する

患者申出療養制度は、未承認薬や適用外の薬を使う場合でも、一定の要件を満たした治療計画のもとで、検査や入院といった基礎的な医療費部分に保険を適用できる可能性がある制度です。主治医を通じて臨床研究中核病院に申し出て、国の審査を受ける必要があり、申請から治療開始まで数か月から1年程度かかることもありますが、全額自己負担の自費診療に比べれば、経済的な負担を抑えながら治療を検討できる選択肢の一つです。

③ 治験に参加できるか調べる

見つかった遺伝子変異を対象にした抗がん薬の治験が、ちょうど別の病院で行われている場合があります。国の治験情報データベースで、自分の遺伝子変異名やがんの種類を使って検索することができるので、主治医やがん相談支援センターに相談しながら探してみる価値があります。治験に参加できれば、薬剤費自体を製薬会社が負担することもあります。

④ 血液検査(リキッドバイオプシー)で再検査する

保険診療のがん遺伝子パネル検査は、多くの場合、過去の手術や生検で採取した組織を使って調べます。ただ、がん細胞は治療を受ける過程で性質を変えていくことがあり、分子標的薬による治療を経ると、耐性遺伝子が現れることもあります。数年前に手術で採取した組織を調べた結果と、標準治療をひと通り終えた「今」の状態とでは、遺伝子の状況が変わっている可能性があります。そこで、血液を使ってもう一度検査をすることで、新しい治療の糸口が見つかることもあります。血液検査であれば体への負担も少なく、比較的短い期間で結果がわかるのも利点です。もし遺伝子パネル検査に提出した検体が過去のものであれば検討してみてもよいでしょう。

⑤ 専門医によるセカンドオピニオンを受ける

がんの種類の壁を越えて、分子標的薬や適応外使用について幅広い知識を持ち、治療の道筋を一緒に考えられる医師に相談することも選択肢になります。日本臨床腫瘍学会が認定する「がん薬物療法専門医」の資格を持つ医師は、全国的に見ても限られた人数です。今の主治医から「治療法がない」と言われた場合、検査結果のレポートを持って、こうした専門医にセカンドオピニオンを受けてみることをお勧めします。セカンドオピニオンを受ける際は、今の主治医との関係を心配される方も多いですが、「自分でも納得するために、別の先生の意見も聞いてみたい」と伝えれば、多くの医師は紹介状やデータを渡してくれます。

⑥ 個人輸入という選択肢(最後の手段として)

海外で承認されている薬を、個人輸入という形で使う方法もあります。これは医師が厚生労働大臣に届出を行い、患者さんの状態や使用する薬について申告し、何らかのトラブルが起きた場合の責任を医師個人が負うという条件のもとで行われるものです。品質保証や副作用対応の面でもリスクがあるため、対応できる医療機関は限られており、他の選択肢を先に検討したうえで、最後の手段として位置づけるべきものです。

まとめ

保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けたけれど治療につながらなかった場合も、検査を受けて「治療法がありませんでした」と言われた時点で終わりではありません。詳しいレポートを取り寄せる、主治医に具体的に質問する、自費診療や患者申出療養制度、治験、血液検査での再検討、専門医のセカンドオピニオンといった選択肢を検討する、というアクションが残っています。医療は日々進歩しており、少し前まではなかった選択肢が新たに見つかることもあります。この記事の内容が、次の一歩を考えるきっかけになれば幸いです。

【参考文献】

  1. [1] 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「C-CAT登録状況」
  2. [2] 日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づく固形がん診療に関するブリーフィングレポート」(2025年6月11日)
  3. [3] 国立がん研究センター・慶應義塾大学「がん遺伝子パネル検査の実臨床における有用性を解明」(2026年1月8日プレスリリース、Nature Medicine掲載)


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