※この記事は『プレシジョンメディシンとは?遺伝子からがんを治療する一人ひとりに合わせて選択する「個別化医療」を解説』(https://cancer-bright.jp/article/post-358/ )を抜粋して、読みやすく再編集しております。
2025年6月に日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会が合同で公表したブリーフィングレポートでは、プレシジョンメディシンが実際に治療に結びつく割合は、保険診療(標準治療終了後または終了見込み)では 8.2%です[1]。一方で先進医療B※で標準治療開始前にがん遺伝子パネル検査を実施した研究では、薬剤につながる割合が19.8%(1年追跡で22.7%)と、より高いことが報告されています[2]。 この記事では、どんな場面で使われるか・実績データ・保険診療と自費診療の違い・受け方の手順を解説します。
※先進医療Bとは、国が将来の保険導入の可否を評価している先進的な医療のうち、未承認・適用外の薬や医療機器を用いる、あるいは安全性・有効性を特に慎重に確認する必要があると判断された技術。厚生労働省が認めた限られた医療機関で、厳格な研究計画のもとに実施される。
1.プレシジョンメディシンはどんな場面で検討されるのか?
保険診療でプレシジョンメディシンが特に検討されるのは、標準治療の選択肢が限られる以下の場面です。
活用シーン 期待できること 注意点 希少がん・原発不明がんの治療 臓器名だけでは治療方針を決めにくい場合に、遺伝子変化から候補を探す。 薬が見つかるとは限らず、治験の条件に合わないこともある。 再発・転移がんの治療 標準治療後の次の選択肢や臨床試験を検討する手がかりになる。 全身状態や既治療により、検査や治療が難しい場合がある。 分子標的薬の候補確認 特定の遺伝子変化に対応する薬が候補になる場合がある。 適応、保険適用、承認状況、治験条件の確認が必要。
ただし、すべての患者さんが対象になるわけではありません。がんの種類や全身状態、過去の治療歴によっては、検査を受けることが難しい場合もあります。
※自費診療では、検査タイミングや条件の制限がなく、希望するタイミングで検討できます。
2.プレシジョンメディシンの治療到達率はどのくらいか?
プレシジョンメディシンは治療選択肢を広げる可能性がある一方、すべての患者さんが治療にたどり着けるわけではありません。
治癒到達率のデータ
保険診療(標準治療終了後):治療に結びつく割合は約8.2%
(出典:日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会合同ブリーフィングレポート、2025年6月)
先進医療B(標準治療開始前):治療に結びつく割合は約19.8〜22.7%
(出典:FIRST-Dxスタディ、Matsubara J, et al. JAMA Netw Open 2023)
「どの制度のもとで、いつ検査を受けたか」によって結果が変わる点が、判断材料になります。
治療につながりにくい主な理由
・治療選択に役立つ遺伝子変化が見つからない
・候補薬が国内で承認されていない、または使えない
・治験の参加条件に合わない
・患者さんの全身状態から治療継続が難しい
なお、がん遺伝子パネル検査では、本来の治療選択とは別に、遺伝性腫瘍に関わる可能性のある情報(二次的所見)が示されることがあります。本人だけでなく家族にも関係する内容を含むため、検査前に医師から二次的所見や遺伝カウンセリングについて説明を受けたうえで判断します[3]。
3.保険診療と自費診療はどう違うのか?
比較項目 保険診療のプレシジョンメディシン 自費診療のプレシジョンメディシン 対象 希少がんなどで標準治療がない、または標準治療が終了、終了が見込まれる固形がん/造血器腫瘍などの患者さん 左記の条件に該当しない場合も含めて、幅広い患者さん 主な検査 がん遺伝子パネル検査(組織検査が中心) リキッドバイオプシー(血液検査)も選択肢に入る 検査タイミング 標準治療後などの条件に該当した時点 早期段階・治療経過中など、より柔軟に検討可能 費用 高額療養費制度の対象になる場合がある 全額自己負担
4.プレシジョンメディシンはどのように受ければよいか?
次の手順で進めるとスムーズです。
① 主治医に、検査の目的と受けられる条件を確認する
② 保険診療・先進医療・自費診療・治験の違いと、自分が該当しそうな枠組みを整理する
③ 結果が出た後に取り得る選択肢(薬・治験・経過観察)を事前に確認する
④ 遺伝性腫瘍や家族への影響が気になる場合は、遺伝カウンセリングも相談する
※保険診療はがんゲノム医療中核拠点病院など指定医療機関で実施。自費診療は医療機関ごとに内容・費用が異なるため比較が必要。
4.よくある質問
Q.プレシジョンメディシンは保険診療で受けられますか?
一部は保険診療で行われています。がん遺伝子パネル検査を保険診療で受けるには、標準治療がない、または終了・終了見込みなどの条件を満たす必要があります[3][4]。費用や対象条件は変わることがあるため、主治医や医療機関で確認してください。詳しくは関連記事「プレシジョンメディシンは保険適用外?」もあわせてご覧ください。
Q.標準治療と並行できますか?
プレシジョンメディシンは標準治療を否定するものではありません。検査や治療候補の検討は、標準治療の前後や治療経過の中で位置づけられます。現在治療中の場合は、主治医と相談し、治療を中断せずに検討することが重要です。主治医との関係性や具体的な進め方は、関連記事「標準治療とプレシジョンメディシンは並行できる?」で詳しく扱っています。
Q.ステージⅣや再発・転移がんでは必ず検査すべきですか?
全員に必要な検査ではありません。ステージⅣ、がんの再発、がんの転移がある状況では検討されることがありますが、がんの種類、標準治療の有無、全身状態、検査後に取り得る選択肢によって判断します。
まとめ
プレシジョンメディシンが治療に結びつく割合は保険診療で約8.2%であり、検査のタイミングや制度によって結果が異なります。
希少がん・再発・転移など、標準治療の選択肢が限られる場面で活用される
保険診療では高額療養費制度の対象になる場合あり、自費診療は全額自己負担
まず主治医に相談し、自分の状況に合った枠組みを確認することが大切
「新しい治療だからよい」と単純に判断するのではなく、自分のがんの状況・治療経過・費用負担の余力を踏まえ、保険診療と自費診療のどちらが適しているか、主治医やがん相談支援センター、医療機関に相談しながら判断していきましょう。
【参考文献】
[1] 国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療」
[2] 国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療 もっと詳しく」
[3] 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「がん遺伝子パネル検査とは」
[4] 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「検査を受けたいときは」
[5] 厚生労働省「がん診療連携拠点病院等」
[6] 日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づく固形がん診療に関するブリーフィングレポート」https://www.cancer.or.jp/uploads/files/briefing_report.pdf
[7] Matsubara J, et al. First-Line Genomic Profiling in Previously Untreated Advanced Solid Tumors for Identification of Targeted Therapy Opportunities. JAMA Netw Open 2023;6(7):e2323336.(FIRST-Dxスタディ)
【参考文献】
[1] 日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本癌学会「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づく固形がん診療に関するブリーフィングレポート」https://www.cancer.or.jp/uploads/files/briefing_report.pdf
[2] Matsubara J, et al. First-Line Genomic Profiling in Previously Untreated Advanced Solid Tumors for Identification of Targeted Therapy Opportunities. JAMA Netw Open 2023;6(7):e2323336.(FIRST-Dxスタディ)
[3] 国立がん研究センター がん情報サービス「がんゲノム医療 もっと詳しく」
[4] 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)「がん遺伝子パネル検査とは」